企業のマーケティング費用はどう動く
ソーシャルメディアが一つの社会的な潮流になりつつあることは疑いようがない事実です。企業のマーケティングにも、当然今以上に活用されてくるはずです。では、企業のマーケティング予算はどの様に変化していくのでしょうか。
企業活動をとりまく環境から、自分なりに検討してみたいと思います。
社会的バックグラウンドとしては、人口減少と少子高齢化、産業構造の変化があります。
政策によって多少変わる可能性もありますが、移民政策に積極的にでもならない限り、人口減少と少子高齢化は避けようのない事実でしょう。
産業構造としては、P.F.ドラッカーが「ネクスト・ソサエティ」で指摘するように、製造業の規模が縮小する可能性が高いと考えられます。製造拠点が海外に移動するためです。価格競争力の確保ための分業化と効率化を推し進めれば、そのようにならざるを得ない。欧米の例に倣えば、日本における製造業は中枢機能としてマーケティングや開発分野が残るのみで、それすらも次第に(真に)グローバル化されて現地主導となる(べきであるから、そうなります)ため、現在のように巨大な雇用の担い手としての機能は失われていくと考えらます。
若年労働力は減少していきますから、大雑把に言えば(高齢者の雇用問題、知識労働者と肉体労働者の格差、あるいは国家福祉などの問題はさておき)社会としてはそれでも良いように思いますが、いずれにしても、右肩上がりの経済というのは起こりえないことを意味します。
このことが国民の関心を「経済」から「社会」へと変えていきます。これはほとんどドラッカー氏の請け売りですが、それを否定する要素が見あたらないことは事実です。
ここ20年の「失われた」社会を生きてきた若者の気分というのは、そういう意味で非常にリアルなものです。
一方、現在のマーケティング活動をとりまくメディアの環境を見てみると、先述のとおりソーシャルメディア全盛であり、経済的なつながりから社会的なつながりへと、個人のコミットメントの変化が見てとれます。一時的な流行と捉える向きもありますが、社会そのものの変容を考えるとき、今ソーシャルへ向かう意識というのが一過性の流行で終わるはずがないのです。
WEB2.0の源流たるクルートレインマニュフェストは、そうした社会の変化を予見したものだと考えられます。
となると、当然ソーシャルメディアマーケティングは存在感を増していくことになりますが、これもまた企業の組織や体制による縛りが強いため、全社戦略として推進していくためには、すくなくともあと数年は掛かるでしょう。
全社戦略である場合、極論は「広告不要」ということになるのでしょうが、広告もひとつの情報でありカスタマーエクスペリエンスであるという立場を作っていくならば、既存媒体がなくなるということは考えづらく、役割や表現を変えて残っていくと考えるのが妥当ではないでしょうか。
過渡的には、「ソーシャルメディアマーケティング オガワ カズヒロ(小川 浩・小川 和也) (著) 」で指摘されているように、マス媒体と連動した「メディアミックス」が促進されると考えられます。
このとき、4マス媒体の広告予算は減少し、インターネット広告とソーシャルメディアを含めたWEBマーケティングにかかる予算が増加すると考えられます。
理由は、生活の中におけるインターネットへの接触機会・接触時間共に増加しているからです。これは携帯電話利用はもちろんですが、スマートフォンの普及というインパクトが大きい。
スマートフォンの急速な普及にアップルという素晴らしい企業が多大な寄与をしていることは間違いありませんが、これもやはり社会との関係性に強く作用するもので、遅かれ早かれ普及するであろうデバイスであったと考えられます。もちろん、これはデバイスだけの問題ではなく、WEB2.0あるいはポストWEB2.0的なサービスとの関係性において重要です。
単一デバイスを超えて自分の環境を持ち運べるようになったことが、スマートフォンの利用価値を向上し、普及に拍車をかけているのです。
テレビは圧倒的なリーチ数という部分で影響力を維持できると考えますが、こうした背景からウェブでのマーケティングとりわけソーシャルメディアマーケティングはOne to Oneであることを求められてきます。行動パターンや趣向、位置情報などが取り入れられるため、広告展開はマス的なそれとは相当に異なります。
これまでのようにファネルを重ねて確度を上げるやり方ではなく、実際の行動データを蓄積することが勝負のカギになります。いかにしてデータ収集可能なユーザを集めるか、ということに予算が割かれるようになるのではないでしょうか。
また、ウェブサイトの開発サイクルがそうなりつつあるように、プロジェクトは継続的でありながら1単位が短く低予算な「ファスト」化をしていくのではないでしょうか。
このとき、短期的にはクリエイティブの予算も低下する可能性がありますが、ユーザエクスペリエンスを高める必要から質の高い制作への回帰が起こり、中長期ではプロフェッショナルな制作というビジネスモデルが成立するだけの予算は確保されるでしょう。
日本のマーケットが人口減により縮小することは考慮しなければなりませんが、制作予算というのは媒体費に比べれば僅かなものなので、媒体予算が最適化されることで、むしろプロフェッショナルなクリエイティブに割かれる予算は一時的に増える可能性すら考えられます。
かなり手前味噌で楽観的な見方ではありますが。。。笑
結論としては、情報化と社会構造の変化が(財やサービスの)製造とマーケティングのプロセスを変容し、広告のあり方やマーケティングと企業の関係を変えます。マーケティングは企業活動の一部門ではなくなり、組織そのものとなります。そういう意味では、マーケティング予算は増大しますが、広告予算は減少するかもしれません。広告の無駄打ちをする必要性が減少すると考えられるためです。このとき、我々クリエイティブの立場がどちら側にいるか、今から考えて行くべきでしょう。

